Home / ファンタジー / 黒き魔人のサルバシオン / 一章 第五話「騎士の責任」

Share

一章 第五話「騎士の責任」

Author: 鈴谷凌
last update Petsa ng paglalathala: 2026-05-16 04:58:56

 ヌールからの旅人であることから、アルトニーの騎士詰所を訪ねるよう申し出を受けたエルキュールとグレン。その言葉の通りに赴いた二人だったが、そこで待ち受けていたのはある男の悲痛な叫びであった。

 男の放った言葉に、グレンとエルキュールの顔も険しいものに変わった。

 ――このままでは息子が……カイルが魔獣に殺されてしまうかもしれないのです……!

 魔獣に殺される。あまりにも物騒なその言葉に、それまで入口の方で様子を見守っていたエルキュールも、男たちがいる詰所内の隅の方へ向かう。

「それはどういう意味ですか?」

 エルキュールが突如として会話に入ってきたことに多少驚いた素振りを見せたが、男は絞りだすように詳しい経緯を語り始めた。

 男の名はリチャード・クラーク、傍らにいる女性と少女はそれぞれ彼の妻と娘であり、ここから西にあるガレアで農業を営んでいるらしい。

 ここアルトニーへはニースで催されている大市に参加するために一時的に滞在し
Patuloy na basahin ang aklat na ito nang libre
I-scan ang code upang i-download ang App
Locked Chapter

Pinakabagong kabanata

  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第六話「森へ」

     グレン・ブラッドフォード――カーティス隊長が呼んだその名前をエルキュールは胸中で反芻する。グレンの苗字を尋ねることはなかったため、今になって初めてグレンのフルネームを知ったからというのもある。  が、そのこと以上にエルキュールが気になったのは、グレンがその名を冠しているという事実であった。 ブラッドフォード。先ほどの会話でもあったブラッドフォード騎士裁判所は現ブラッドフォード家当主のヴォルフガング氏の提案で設立された国家機関であり、同氏が裁判長を勤めているというのは広く知れ渡っていることだ。  もちろんそれも大層なものだが、ブラッドフォード家といえばオルレーヌ建国時から大きな力を持っている武家の一つとしても有名だ。その歴代当主は紅炎騎士の称号で呼ばれ、この国の防衛や政治にも携わっている。 養子とはいえ、今まで旅をしてきた連れがそんな大家に連なるものだと知れば、多少驚くのも無理はないことだった。「……ったく、名乗るつもりなんかなかったのによ」 思わぬところで自身のことを明るみに出され、グレンは煩わしそうに呻いた。「あなたがあの家に対してどのような思いを持っておられるかはさておき、この場は是非ともお力をお借りしたいものですねぇ」 グレンの態度を前に、カーティス隊長はその年に相応な柔和な笑みを浮かべた。申し訳なさそうな表情ではあったが、その声は相変わらず強い意志のようなものが混じっており、その年でここの騎士を任せられているのも納得の胆力を感じさせた。「それは分かってる。ま、一応オレが仲介すれば楽に手続きできるとは思うぜ」「ええ、感謝しますよ、グレン卿」 その会話から察するに、グレンの協力によってこのジェイクを正しく裁くように計らうようだ。当の本人はようやくその事実を認識したのか、その顔には絶望の色が広がった。「な……嘘だろ? 待ってくれ、違うんだ、俺は――」「いいえ? 何も違うことなどありませんよ、ジェイク。少なくともあなたが虚偽の理由で任務を放棄しようとした事実は、私を含めたこの場の証言だけでも証明できるでしょうし……そちらのご家族の件の詳細によってはより罪は重くなるや

  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第五話「騎士の責任」

     ヌールからの旅人であることから、アルトニーの騎士詰所を訪ねるよう申し出を受けたエルキュールとグレン。その言葉の通りに赴いた二人だったが、そこで待ち受けていたのはある男の悲痛な叫びであった。 男の放った言葉に、グレンとエルキュールの顔も険しいものに変わった。 ――このままでは息子が……カイルが魔獣に殺されてしまうかもしれないのです……! 魔獣に殺される。あまりにも物騒なその言葉に、それまで入口の方で様子を見守っていたエルキュールも、男たちがいる詰所内の隅の方へ向かう。「それはどういう意味ですか?」 エルキュールが突如として会話に入ってきたことに多少驚いた素振りを見せたが、男は絞りだすように詳しい経緯を語り始めた。 男の名はリチャード・クラーク、傍らにいる女性と少女はそれぞれ彼の妻と娘であり、ここから西にあるガレアで農業を営んでいるらしい。 ここアルトニーへはニースで催されている大市に参加するために一時的に滞在しており、本来ならば一昨日の三日にはヌールへと向かっていたはずだった。「あなた方もご存じかもしれませんがその日は魔獣が大量発生しており、一般人の通行が制限されていたのです」 あの日のことについてはエルキュールもよく知っていた。ヌール・ガレア方面での魔獣の大量発生、当日の該当区間の通行には魔法士などの専門職の同行が必須だったのだ。「まあ、制限の方は然程問題ではなかったのですけどね……本当にあの魔術師さんには頭が上がりません」「魔術師だ? そんなお偉いさんがこの街にいたのかよ」 魔術師という単語にグレンは大仰に反応した。魔法士の上位職である魔術師は数も限られており、優れた魔法技術を持つことから国からも重宝されている。 一介の農商が雇うというのは少し珍しく、エルキュールも意外そうな目で相槌を打った。「いえ、雇ったというより彼女の目的のついでに、といった話でしたが……ともかくこれで何の憂いもなくニースへ、そう思っていたのに」

  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第四話「一難去ってまた一難」

     グレンが目を覚ましたのは翌日の早朝のことだった。 昨日からほぼ丸一日もの時間熟睡したグレンは大層機嫌がいいようで、ベッドから起き上がるとすぐに足を曲げたり手を回したり、身体を曲げたり跳ねたりして、発祥不明のよく分からない体操に精を出していた。「ふぃ~……って、どうしたエルキュール、そんな冷たい顔してよ」 仕上げの深呼吸まで丁寧に終えると、グレンはそれまで仏頂面でベッドに腰かけていたエルキュールを見やる。その額には汗が滲んでおり、それが光に照らされ煌めいているものだから、彼の彫りが深く精悍な顔つきと相まって絵画のような芸術性をもたらしていた。「――実に見事な動きだと思っていた」「『何て馬鹿な動きをしているんだろう』って思ってたってかぁ!なあ!」 物に当たらないよう広い空間で体操をしていたグレンは、大股でエルキュールの前に歩み寄ると腰に手を当て大声で怒鳴った。 謂れのない怒りに首をかしげるエルキュールに、「顔が物語ってるんだよ!」と彼の顔の目の前に指さしながらグレンは続ける。「いいか、朝の運動っていうのは人間のその日の代謝を向上させる上に体操ってのは普段使わない筋肉を使うことからより効果的に――」「それは分かっているさ」 グレンの妙な壺を刺激してしまったことを後悔しながらエルキュールは両手で制止する。「それより、昨日した約束のことを覚えているか? 王都を目指す前に、まずは騎士団の詰所へ顔を出そう」 建設的に話を進めるべく、人差し指を立てゆっくりと提案する。その重みのある声にグレンも矛先を収め、手拭いで額の汗を拭きながら応じる。「ああ、ここの騎士には既に連絡がいっているのかもしれねえが、情報を共有するのは大事だからな。それが済んだらいよいよ王都か――」 どこか遠い目をして呟くグレンをエルキュールは疑問に思った。何かを懐かしんでいる、そんな風に見て取れた。 よほど表情に出ていたのか、グレンはエルキュールの視線に気づくと苦笑し頭を掻いた。「――王都にはアマルティアの仲間が潜んでいるかもしれねえからな、

  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第三話「目を瞑られるなら」

    「おっ、やっと見えてきたなぁ。ふわぁ……」 隣を歩く赤髪の青年、グレンが眠そうに欠伸を零したのを見て、エルキュールは歩を止めて彼の様子を窺った。もう目と鼻の先にあるアルトニーの街を見据えるその顔には疲労が滲んでおり、声にも覇気が感じられなかった。 お互い心に秘めるものはあるものの、とりあえずは共に王都を目指すことになった二人ではあるが、流石にここまで徒歩で来るのは無理があったのかもしれない。 エルキュールとグレンの最初の出会いから既に丸一日は経過している上、魔獣との戦闘やヌールでの事件に巻き込まれたことから相当に体力を消費させられた。 魔人であるエルキュールは先ほど魔素を吸収して身体を回復させることが出来たが、対するグレンはあのヌール郊外の天幕の固い床で小一時間眠っただけである。流石に疲労困憊であろう。「街に着いたら早々に宿をとってしまおう、グレン。……空いているといいんだが」「ああ、まったくだな。……柔らけえベッドが恋しいぜ」 エルキュールの提案に、グレンは弱々しくはあるが確かな笑みを返した。 そうこうする内に街の入り口にある門に差し掛かる。門に控えている見張り役の騎士が二人に気が付いたようで、大層驚いた様子で彼らの下へ駆け寄ってくる。「お、おーい! 君たち、まさかとは思うがヌールから来たのかい!?」「そうですね……それより、街に空いている宿はありますか? ここまで寝ずに来たので休みたいのですが」 疲れて口もきけないグレンに代わってエルキュールが応じた。 騎士の男は二人の事情が気になって仕方がないといった様子だったが、流石にこの場で根掘り葉掘り尋ねるのも酷だと思ったのだろう、言葉少なに現在のアルトニーの様子を説明すると空いている宿を案内してくれた。「そうだ、明日にでもいいから我々が駐屯している騎士隊詰所に顔を出してくれないかな? どうやら一般人というわけでもなさそうだし、我々もヌールについては未だ不明の点が多いからね。強制はできないが、協力してくれると助か

  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第二話「ある少女の紀行 後編」

    「すみません! 特盛パフェ一つ!」 アルトニーにある宿の一角、宿泊客が食事に舌鼓を打ちながら談笑している食堂にて、カウンターに控えていた男の一人に向かって威勢よく注文を伝えるジェナの声が響いた。 快活な笑みを浮かべるジェナとは対照的に、カウンターの男はそんな彼女の不釣り合いともいえるほどの元気の良さに辟易したのか、苦笑しながらそれに応じる。「嬢ちゃん、確かさっきもここに来て注文してなかったか? 特盛パフェもそうだが、カヴォード産牛肉のステーキ定食やガレア風サラダ、他にも――」「あーあー! それ以上はもういいですから! きょ、今日は特別なんです! たくさん食べて気合いを入れようかなと……ほら、腹が減ってはなんとやらとも言いますし!」 男の口から発せられる料理名に顔を青くしたジェナは大声でそれを遮ると、言い訳がましく早口でまくし立てた。 確かに男の言う通り食事は既にとっている。十分に――否、一般女性の平均と比べると些か多いといえる量をとっている。 しかし、先ほど宿の一室での一件で改めて覚悟を決めたジェナとはいえ、厳しい修行の前に当分の間食べられなくなるであろう好物を食しておきたい欲求には勝てなかったのだ。「糖分だけに――ね」「……何を言ってるかさっぱりだが、承ったぜ。すぐ用意すっからそこで待っててくれ」「……はい」 パフェを目の前にして舞い上がってしまった自分を省みながら、男のそっけない対応にジェナは弱々しく返した。 だが、今だけはこうして気分を高揚させておく必要があるのも事実だった。 ジェナが担う六霊守護の任務、精霊の聖域を守るという使命を全うするには、体力も魔力もさらに強くなる必要がある。 魔法士試験を経て、上位職である魔術師の称号を賜ったジェナであっても、現状のままでは未だ力不足であるのは否めなかった。 だからこそ、こうして修行の旅をするよう命じられたのだ。「そう、明日のクラークさん達からの依頼が終わったら、すぐにでも――」「おや、僕たちがどうかしましたか?」「え……? って、うわぁ!?」 心の声がいつの間にか漏れていたことと、急に声をかけられたことの二重の驚きによって、ジェナは情けない叫びをあげる。 気が動転しながらも声がした方へジェナが視線を向けると、随分と物腰の柔らかそうな出で立ちの男女が、珍妙な姿勢で固まった彼女に

  • 黒き魔人のサルバシオン   一章 第一話「ある少女の紀行 前編」

     リーベという生物が生まれる遥か前の古の時代のこと。 高濃度の魔素で満たされたヴェルトモンドの大地は、精霊と呼ばれる生命が住まう園であった。 火の精霊、水の精霊、風の精霊―― 世界の理たる六属性の魔素と対応する六属性の精霊たちは、思い思いのままにヴェルトモンドを放浪し、互いが干渉することを嫌っていた。 内に秘める魔素が原因なのか、異なる属性を持つ精霊たちが遭遇すると常に争いが起こる。 争いが起これば、常に力の強いものが勝ち、弱いものが淘汰されるのは、群れることを厭う精霊の間では避けられないものだった。 勝った側は負けた側の魔素を取り込み、各精霊の力の均衡というのは次第に崩れていった。 力を持つ者にとって、自らの害となるものを力で排除することは非常に単純かつ効果的であり、闘争に慣れた精霊たちの力はやがて、ヴェルトモンド全土の魔素を喰らい尽くさんとしていた。 だが、類まれなる力を有した精霊であっても、未曽有の危機に瀕したヴェルトモンドを、苦難に喘ぐ弱き精霊たちを救おうとするものたちがいた。 後の時代に多大なる影響を及ぼした六体の精霊――ゼルカン、トゥルリム、セレ、ガレウス、ルシエル、そしてベルムント。 属性が異なるにも関わらず、六体の精霊は互いに協力することを惜しまず、そんな彼らの姿を目の当たりにした他の精霊たちの間にも、ある共通の意志が芽生えようとしていた。 それは抗争の意志であった。強大な敵を打破するために力を結集しようという意志であった。「――そして力を合わせた精霊たちはどうにか悪い精霊を倒し、平和になったヴェルトモンドでは、六体の大精霊の加護の下今度は仲良く暮らしましたとさ。めでたし、めでたし~」「あ、最後の方なんかテキトーにしめただろー!」 それまで部屋を満たしていた少女の朗読の声が止むや否や、向かいのベッドに腰かけていた少年の鋭い指摘が飛ぶ。 不満の表情を浮かべる少年に思わず少女は苦笑する。確かに最後の部分は意図的に省略して読んだが、何も朗読に飽きたとか、いいかげんにあしらったとか、決してそういった理由ではなかった。「そうだよジェナおねえちゃん、だいせいれいたちはこの後どうなるのー? あたし、気になるよぉ……」 少女――ジェナの視線の先では、少年の傍らに座る幼女が彼の言葉に同意して物語の続きをねだるが、その半開きの口からは

Higit pang Kabanata
Galugarin at basahin ang magagandang nobela
Libreng basahin ang magagandang nobela sa GoodNovel app. I-download ang mga librong gusto mo at basahin kahit saan at anumang oras.
Libreng basahin ang mga aklat sa app
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status